令和7年5月8日、衆議院本会議において、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が可決・成立しました。この改正は、多様な人材が安全かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、広範な安全衛生対策の見直しを行うものです。
個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
これまで労働者の災害防止を主な目的としていた労働安全衛生法に、個人事業者等も対象として取り込みます。これにより、労働者と個人事業者等が混在して作業を行う現場などにおける労働災害防止対策が強化されます。
・注文者等が講ずべき措置の明確化
個人事業者を含む作業従事者の混在作業における災害防止対策などが定められます。これは、ILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)の履行に必要な整備も目的としています。
・個人事業者等自身が講ずべき措置
安全衛生教育の受講や業務上の災害報告制度などが新たに定められます。
施行期日
・注文者等が講ずべき措置の一部:公布日
・個人事業者等自身が講ずべき措置の一部:令和9年1月1日
・注文者等が講ずべき措置及び個人事業者等自身が講ずべき措置の一部:令和9年4月1日
職場のメンタルヘルス対策の推進
これまで労働者数50人未満の事業場においては努力義務とされていたストレスチェックが、義務化されます。中小規模の事業場への影響も考慮し、施行までには十分な準備期間が設けられる予定です。
施行期日
公布後3年以内に政令で定める日
化学物質による健康障害防止対策等の推進
化学物質を取り扱う事業者に対する規制が強化されます。
危険性・有害性情報の通知義務違反への罰則
化学物質の譲渡等を行う事業者が、危険性や有害性に関する情報の通知義務に違反した場合、罰則が科せられます。
成分名が営業秘密の場合の代替通知
一定の有害性の低い化学物質に限り、成分名が営業秘密である場合に代替化学名等での通知が認められます。ただし、代替が認められるのは成分名のみで、人体への影響や応急措置に関する情報は対象外です。
個人ばく露測定の制度化
労働者の個人ばく露測定が作業環境測定の一つとして位置づけられ、作業環境測定士等による適切な実施が求められます。
施行期日
・危険性・有害性情報の通知義務違反への罰則:公布後5年以内に政令で定める日
・個人ばく露測定:令和8年10月1日
機械等による労働災害の防止の促進等
機械設備による労働災害を防ぐための措置が強化されます。
民間登録機関の活用範囲拡大
ボイラーやクレーン等に関する製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大されます。
登録機関等の適正な業務実施の確保
登録機関や検査業者の不正行為への対処や欠格要件が強化され、検査基準の遵守義務が課せられます。
施行期日
・登録機関等の適正な業務実施の確保:令和8年1月1日
高齢者の労働災害防止の推進
高齢者が安全に働ける環境整備を促進します。
高年齢労働者の労働災害防止措置の努力義務
事業者に対し、高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置を講じることが努力義務とされ、国が当該措置に関する指針を公表することなどが定められます。
今回の改正は、働くすべての人々の安全と健康を守るための重要な一歩となります。特に、中小規模事業所におけるストレスチェックの義務化や、個人事業者に対する安全衛生対策の導入は、今後の労働環境に大きな影響を与えると考えられます。各事業者は、今後の政省令や指針の動向を注視し、適切な対応を進めていく必要があります。
引用:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/001449334.pdf